かつて「高嶺の花」だったブランドが、中古市場では驚くほど手頃な価格で手に入ることがある。今回はそんな音楽好きの心を揺さぶる出来事について。Bowers & Wilkins(B&W)のワイヤレス完全イヤホンPi7を、状態Aの中古で1万円で確保した。その体験を通して、外観、セットアップの落とし穴、ジャンル別の音質、現代の中国製イヤホンとの比較、そして購入時の注意点までを余すことなくまとめる。
目次
- なぜ今、古いハイエンドBluetoothイヤホンが興味深いのか
- B&W Pi7とは:背景と簡単なスペック
- 開封と第一印象:高級感は健在か
- 接続・ファームウェアでハマった話と対処法
- ノイズキャンセリングの実力
- ジャンル別リスニング・レビュー(ジャズ、クラシック、J-POPほか)
- 現行の中国製イヤホン(例:AZ100シリーズ)との比較
- 中古で買うときのチェックポイントとおすすめの買い方
- 総評:1万円で手に入るB&W Pi7の価値
なぜ今、古いハイエンドBluetoothイヤホンが気になるのか
オーディオ趣味の歴史を振り返ると、アンプやスピーカーは年を経るごとに「ヴィンテージ」として価値が上がることが多い。一方でBluetoothイヤホンは、バッテリーや無線仕様が関係するため、世代交代が早く、数年で「安価」に見られることがある。
だが実際は、最新の機器が常に「最高」に聞こえるわけではない。特に低域の厚みや音の温かみ、音場の立体感は、かつての設計思想やドライバー構成が生み出す魅力がある。そうした理由から、「昔の高級機」を中古で掘り出す価値が今でもあると感じている。
B&W Pi7とは:背景と簡単なスペック
B&W Pi7は同社のワイヤレス完全イヤホンのフラグシップ機のひとつで、発売当時は高額な部類に入った。開発チームはB&Wの800シリーズスピーカー設計に携わったメンバーが関わっており、音作りにスピーカーの哲学が反映されている。
- ドライバー構成:内部にダイナミックドライバー(約9.6mm)とバランスド・アーマチュア(BA)ツイーターを備えた2ウェイの構成。
- アンプ構成:ケースに内蔵したトランスミッター兼アンプによるバイアンプ設計(低域用と中高域用の分離)を採用。
- ノイズキャンセリング:アクティブノイズキャンセリング(ANC)搭載。
- 発売当時の価格帯:数万円〜6万円程度が相場だった。
このモデルは「ドライバーの分離」「ハイエンドスピーカーを作るノウハウ」をイヤホンサイズに落とし込んだ点が特徴だ。
開封と第一印象:高級感は健在か
到着した中古品は「Aランク」で、外箱や付属品も一式。箱の蓋は強めのマグネットで閉まる作りで、開封の瞬間から所有感を満たしてくれる。

マグネット式の開閉は、最初に触れたときの高級感を感じさせる。

本体は黒とゴールドを基調にした落ち着いたデザイン。金属パーツや仕上げに高級感があり、当時の定位設計や素材選定のこだわりが伝わる。
イヤーピースは複数サイズが同梱されていたが、最初はLサイズが装着されていたため装着感が大きく感じられた。装着感は音質に直結するため、最終的にはMサイズを選んだ。
接続・ファームウェアでハマった話と対処法
中古で買った直後に、接続トラブルで少し手間取った。具体的にはメーカー公式アプリの画面がAndroid 16搭載のスマートフォンでタップに反応しない不具合があり、更新が必要だった。

問題の解決には次の手順が必要だった。
- Android 16以外の端末で公式アプリを起動する。
- アプリの指示に従ってイヤホンのファームウェア更新を行う(ケースに戻して蓋を閉める必要がある)。
- 更新完了後、もともとの端末で再度ペアリングを行う。

更新中はスマートフォンをケースに近づけたまま、約20分程度の待ち時間が必要だった。更新途中で不安になるが、焦らず待つことが肝心だ。
更新後はペアリングが正常に完了し、アプリで機能の確認やノイズキャンセリング設定ができるようになった。

成功したあとの接続画面。古い製品でも最新のスマホ環境に合わせるための更新が重要だ。
ノイズキャンセリングの実力
Pi7のANCをオンにすると、かなりしっかりと周囲音が抑えられる。古い世代の機種だと期待していなかったが、実用レベルで使える性能を持っていた。

ANCの効きは想像以上。通勤やカフェでの雑音カットに十分役立つレベルだ。
ただし、中古品の場合はヘッドユニットの経年や接触不良による「パチパチ」ノイズが発生することがある。今回も一時的にひっかかりがあり、購入先の保証対応を確認した。中古専門店なら30日保証などが付いていることが多いので、動作確認は早めに行うこと。
ジャンル別リスニング・レビュー
ここからは実際にいくつかのジャンルで聴き比べた印象を書いていく。曲名は参考として挙げるが、重要なのは音の傾向だ。
ジャズ(例:Herbie Hancock系)

ジャズで最も印象的だったのは低域の厚みと中低域の躍動感。ベースラインがしっかりと「芯」を持って押し出してきて、ピアノやスネアの細かな余韻も十分に再現する。
全体の音像は三次元的で、低音の「量感」と高域の「空気感」が同居する。ジャズ特有のライブ感、スピーカーの前で聴いているような奥行きがあり、ジャズ好きには刺さるサウンドだ。
クラシック

クラシック再生では驚くべき解像感と情報量が聴こえた。弦楽や管楽器の輪郭、演奏空間の残響や小さな音のニュアンスまで拾ってくれる。
この機種の設計思想がスピーカー寄りであることを強く感じさせる。単に「細かく聴かせる」だけでなく、音の積み重ねやコントラストが非常に自然で豊かだ。クラシックの大編成でも音像が潰れず、楽器の位置関係が把握しやすい。
J-POP(例:Laurel Day Romance系)

J-POPでは力強さが際立つ。ボーカルの存在感、ビートの押し出し、サビの迫力感などが非常にパワフルに表現される。とくに現代的なアレンジの楽曲では、音像の明瞭さと低域のコントロールが相まって気持ちよく聴ける。
ただし「シャープさ」や「超高解像」は最近のハイレゾ指向の単一ドライバー機(例:最新の単体ドライバーモデル)に一歩譲る場面もある。Pi7は解像の方向性よりも、音の厚みや楽器の質感、空間表現を優先している印象だ。
ポップ・エレクトロニカなど
シンセ主体の音楽では、低音のキレと余韻のバランスが良く、リズムトラックの描写がクッキリする。個々の音が独立して聞こえるので、ミックスの情報量をよく伝えてくれる。
音の特徴を整理:何が「B&Wサウンド」なのか
- 立体感:スピーカーの設計思想を踏襲したためか、音像の高さ・奥行きが出やすい。
- 低域の厚み:単にドンと押す低音ではなく、「膨らみと芯」を両立している。
- 中域の豊かさ:ボーカルや楽器の質感が濃密で、アナログ的な温かさを感じる。
- 高域の繊細さ:BAツイーターが繊細な高域情報を補完し、余韻や空気感を再現する。
味付けで言えば、B&W Pi7は「高級レストランのコース料理」のように、一品一品の味わいが濃く、重層的。派手さよりも素材の良さと調和を重視する。
現行の中国製イヤホン(例:AZ100シリーズ)との比較
最近は中国メーカーが価格性能比で非常に高いイヤホンを出している。AZ100やA100シリーズのような最新モデルは、解像度や音の「切れ味」で確かな進化を見せる。
- AZ100系の特徴:単一ドライバーの進化による高解像、鮮明さ、細部の分離感が強い。音像の切れが良く、プレゼンテーションが知的。
- Pi7の方向性:2ウェイ+バイアンプ設計ならではの密度感と音場の厚み。解像では若干現行機に譲るが、音楽の「情感」や低音の体積感では強み。
言い換えれば、AZ100は「鋭く詳細を見るタイプ」、Pi7は「質感と豊かさで魅せるタイプ」だ。好みの差は大きいが、ジャンルや曲によってはPi7の方が満足感が高い場面も多い。
中古で買うときのチェックポイントとおすすめの買い方
今回のように数万円相当の機種が1万円程度で手に入ることもあるが、中古購入にはリスクも伴う。以下の点は必ずチェックしよう。
- 外観の状態:ケースの擦り傷、塗装剥がれ、金属パーツの腐食などを確認する。表面は比較的目立つので状態評価はしやすい。
- 付属品の有無:充電ケース、充電ケーブル、イヤーピース、説明書など。付属品の欠品は整備状態の手が抜けている可能性がある。
- 動作確認:ペアリング、音出し、ANCオン・オフ、左右チャンネルのバランスをチェック。中古店であれば試聴をお願いするか、購入後すぐに確認する。
- ファームウェア更新の可否:古い機種は最新スマホとの互換性で問題が起きることがある。公式アプリで更新可能か確認する。
- 保証と返品ポリシー:購入先の保証期間や返品対応をチェック。30日保証、60日トライアルキャンペーンなどを利用できる店舗もある。
特にワイヤレス機器はバッテリー劣化や接続不良といった見えづらい不具合があるため、動作保証がしっかりしている販売店から買うのが安心だ。
実用的な使い方と付属品の小さな発見
付属イヤーピースは複数サイズあるが、装着感により音質が変わるため自分に合うサイズを選ぶこと。シリコンやフォームの形状で低域の量感や遮音性が変化する。
また、ケース自体がトランスミッター兼アンプの役割を果たす機種もあるため、ケースの充電状態や接触不良は音に直結する。ケースの接点や端子も確認しておこう。
総評:1万円で手に入るB&W Pi7の価値
結論を先に述べると、今回のように1万円で良好な状態のPi7を手に入れられるなら、とても満足度が高い買い物になる。音の豊かさ、ジャンルを問わない対応力、ANCの実用性は現代のエントリーからミドルの機種に並ぶか、それ以上の魅力を持つ。
ただし注意点もある。ファームウェア互換性や経年に伴う不具合の可能性、中古ゆえの外装や付属品の欠損などだ。これらは中古販売店の保証や返品ポリシーを確認することである程度カバーできる。
最新の単一ドライバー採用モデルが好む「クリアで鋭い解像感」を求める人には、AZ100や類似の現行機の方が好適かもしれない。一方で「音楽の質感」「空間表現」「低域の厚み」といった要素を重視するなら、Pi7は今なお魅力的だ。
購入のアドバイスまとめ
- 中古でも保証付きの店舗を選ぶ:初期不良が出たときの対応は重要。
- ファームウェアの更新を忘れない:特にスマートフォンのOSバージョンによる互換性問題がある。
- 装着感を試す:イヤーピースのサイズや素材で音は大きく変わる。
- ジャンルで試聴する:自分が普段聴く音楽で試すと、満足度が見えてくる。
最後に
音との出会いは一期一会だ。ブランドや発売当時の価格だけで判断せず、耳で確かめることで発見がある。今回のB&W Pi7のように、過去のハイエンドが中古で手に入ることは、音楽体験の幅を広げるチャンスでもある。

気になるモデルがあれば、スペックと自分の求める音楽性を照らし合わせて検討してほしい。高価な新品にこだわらず、良質な中古を掘り出すのも賢い選択だ。
良い音は、正しい選択と少しの勇気から始まる。


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